カスハラ対策義務化の背景と企業が取るべき具体策 ― 最新法改正のポイントと今後の展望
労働問題労働環境改善最新ニュース2025年6月30日
カスタマーハラスメント(カスハラ)対策義務化の背景と企業対応のポイント
カスハラ対策義務化の背景
近年、顧客による理不尽な要求や嫌がらせ、いわゆる「カスハラ」が深刻な社会問題となっています。特に小売業やサービス業では被害が相次いでおり、2024年6月にUAゼンセンが実施した調査では、従業員の46.8%が過去2年以内にカスハラ被害を受けたと回答しています。
この背景には、日本特有の「お客様は神様」という顧客第一主義や、SNSの普及による情報拡散のリスク、過剰なサービス提供に伴う顧客期待値の過度な上昇などが挙げられます。これらが従業員の精神的負担や離職率の増加、さらには企業ブランドの毀損を招いており、法的対応の強化が求められてきました。
厚生労働省は2022年2月に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表し啓発活動を進めてきましたが、今回の法改正はそれを一歩進めた対策強化となります。
企業に求められる具体的な対応
改正法により、すべての事業主にカスハラ対策が義務付けられます。具体的には、今後厚生労働省が指針を定める予定ですが、主な施策として以下が想定されています。
- ・方針の明確化と周知・啓発
企業としてのカスハラ対策方針を文書化し、就業規則や社内ポリシーに明記。従業員へ周知徹底する。 - ・相談体制の整備
従業員が安心して相談できる窓口の設置と環境整備。 - ・対応マニュアルの策定
発生時の具体的な対応手順を明示したマニュアルの整備。 - ・従業員への研修実施
対応力向上のための研修やロールプレイングの実施。 - ・証拠保全ツールの導入検討
通話録音や防犯カメラ、チャットログ保存などのツール導入。 - ・メンタルケアの実施
被害従業員へのカウンセリングや産業医との連携支援。 - ・外部専門家との連携
必要に応じ弁護士や社労士等と連携した適切対応。
改正法の概要とカスハラの定義
本改正法では、以下のように定義しています。
「顧客、取引相手、施設利用者等の言動により、社会通念上許容される範囲を超えて労働者の就業環境が害される行為」
また、取引先からのハラスメント(BtoBカスハラ)も明確に対象に含まれています。
カスハラの具体例
- ・欠陥のない商品の交換要求
- ・暴言や暴行
- ・土下座の強要
- ・長時間にわたる叱責
その他の法改正ポイント
今回の改正では、カスハラ対策義務化に加え、以下の内容も盛り込まれています。
- ・就職活動中の学生など求職者に対するセクシュアルハラスメント対策の義務化
- ・従業員101人以上の企業に対する女性管理職比率の公表義務
- ・治療と仕事の両立支援に関する企業の努力義務
義務違反時には刑事罰はありませんが、行政からの「報告徴求命令」や「助言・指導・勧告」、さらには「企業名の公表」などの制裁措置が科される可能性があります。特に「企業名の公表」は企業の reputational risk(評判リスク)となり、強力な抑止力となっています。
今後の展望と企業への影響
今回の法改正により、これまで任意であったカスハラ対策が企業にとって遵守義務となりました。厚生労働省が策定する指針に基づき、具体的な対策を整備する必要があります。
義務化により企業には一定の負担増も予想されますが、安全・安心な職場づくりを通じて従業員の離職防止や生産性向上、さらには顧客満足度の向上にも寄与することが期待されます。カスハラ対策は現代企業経営における重要課題といえるでしょう。
東京都では2025年4月より既にカスハラ防止条例が施行されており、多くの企業がその内容を参考に対応を進めています。
将来的には労働者だけでなく、フリーランスにも本法の適用範囲が拡大される可能性があり、今後の動向を注視する必要があります。
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※本記事は、各種報道および公表されている情報をもとに、労働組合の立場から整理・解説したものです。法律や制度の詳細な運用については、厚生労働省などの公的機関による正式な発表やガイドラインをご確認ください。